みなさんは株価ってどうやって決まってるのか考えたことありますか?
おそらくは良い材料が出そうだから上がる、悪い材料が出そうだか下がる、と方向は意識しているとは思いますが、ではその水準が適切なのかどうかということまで意識している人は少ないのではないでしょうか?
水準を意識していたとしても、過去と比べてどうかということで絶対的な水準を持っている人はほとんどいないかと思います。
この記事では株価がどうやって決まるのか、その本質的な価値について説明していきます。
【結論】株価は将来キャッシュフローの割引現在価値の合計
株式に限らず、債券や不動産も今はこの将来キャッシュフローをベースに価格付けされています。

割引現在価値ってなに?
いきなり結論を言ってもこういう頭に「?」が浮かんでいる人も多いと思うのでひとつずつ説明していきます。
キャッシュフロー投資に係わるお金の流れのことです。
今の1万円と1年後の1万円は同じではない
今すぐ1万円貰えるのと1年後に1万円貰えるのはどっちか良いかと聞かれれば、ほとんどの人は今すぐ1万円貰うほうを選ぶと思います。
将来にもしもがあって貰えなくなくなることがあるかもしれませんし、今1万円あれば、預金するなり投資するなりで1年後は1万円以上に増やせる可能性が高いですからね。
では、今すぐ1万円貰えるのと、1年後に1万1,000円貰えるのではどうでしょうか?
年間10%も上乗せされるのであれば、1年後の1万1,000円を選ぶ人も増えてくるかと思います。
このように 今の1万円と1年後の1万円は同じではないため、将来の1万円は今のいくらだったら等価になるかというのが割引現在価値という考え方です。
例えば、今の1万円と1年後の1万500円が等価だと多くの人が思えば、「1年後の1万500円の現在価値(割引現在価値)は1万円」であるということです。
ちなみのこの場合の割引率は5%となります。


信用によって割引現在価値は変わる
また、お金をくれるという相手によっても割引現在価値は変わります。
当たり前の話ですが、政府が政策として1年後に対象者に1万円配りますよという場合の1万円と、飲み屋であった見知らぬ酔っ払いが来年1万円上げるという場合の1万円は全然違いますよね?
(政府が信用できないとかいう問題はとりあえず置いといて)
政府が配る場合は来年まで待ったら1万円だけど、今すぐだと5,000円になると言われたら大体の人は待つんじゃないでしょうか?
一方で飲み屋の場合は間違いなく今すぐ5,000円を選びますよね!
相手の信用度によって割引率が異なり、信用リスクが高くなるほど割引率を高めるのが合理的な判断ということです。


株価は配当の割引現在価値の合計
話を株価に戻します。
最初で言ったところのキャッシュフローというのが株式における配当に該当します。
そして配当の割引率は将来の会社の業績によって出たりでなくなったりし、不安定なため安全資産の割引率よりかは高くなります。
割引率をいくらにするかというのは難しい話ですが、個人的にはざっくりと7%少しくらいかなぁと思っています。



来年の配当は割引率で割ればいいけど、再来年はどうすればいいの?
再来年の配当を割引率で割り引くと来年の将来価値になるのでそれをもう一度。割引率で割り引けば現在価値になります!
再来年の100円は割引率7%だとすると、来年換算では93円となり、現在価値は87円になるということです。
企業の配当がどれだけ続くかは分かりませんが、一応一生続くとして、将来の配当の割引現在価値をすべて足し合わせたものが理論的な株価ということです。
これが株式の本質的な価値ということです😀


株価の本質価値を数式化してみよう!


それでは株価は配当の割引現在価値の合計というのを数式化して見える化していきましょう!



数式とか無理!
数式に拒否反応を示す人もそれなりにいるかと思いますが、この部分が分かってるかどうかで投資の考え方が全く異なってくる最重要部分です!
個人的には、今後10冊の投資本を読むより、この本質を分かることが大事だと思いますので、ぜひ理解していってください!
その前に債券の本質価値を求める
株式の前に債券の本質価格を求めていきましょう!
なぜ、株式に直接行かないかは、将来のキャッシュフローを割り引いて足していくというやり方は株式以外にも使える汎用的なやり方ですし、株式より債券のほうが仕組が単純なので、まずここから始めたほうが躓くことなく理解できると思ったからです。
債券は毎年決まった金額を金利として受け取れ、満期には元本も戻ってくるという仕組みですよね。
例えば、5年満期の年一利払いの債券のキャッシュフローは以下のようになります。


このとき、クーポンが年1回3%で割引率が2%、この債券の本質価値は元本を100とすると、
\(債券価格=\frac{3}{1.02}+\frac{3}{1.02^2}+\frac{3}{1.02^3}+\frac{3}{1.02^4}+\frac{3}{1.02^5}+\frac{100}{1.02^5}\)
\(債券価格=\frac{3}{1.02}+\frac{3}{1.02^2}+\frac{3}{1.02^3}+\frac{3}{1.02^4}\\\\+\frac{3}{1.02^5}+\frac{100}{1.02^5}\)
となり、債券価格は104.7となります。
ざっくり言うとクーポンはその債券が発行されたときに決まってる比率で、割引率はそのときの相場環境によって変化します。割引率は要求リターンとも言い換えられるため、金利が上昇すると割引率ももちろん増加します(というか安全資産の場合、この金利そのものが割引率です)。
定額配当の株式の本質価値を数式化してみる
それでは、株式の本質価値について求めていきましょう。
株式と債券、一番の違いは満期があるかないかです。
債券の場合は5年とか10年とか満期が来れば元本は返金されますが、株式の場合はその元本返金がありません。ただし、企業が継続する限りは配当を出し続けます。
どんな企業でもいつかは倒産しますが、それがいつかは分かりませんし、上場企業であれば十分に長期に渡って存続できる=永久に配当を出し続けられるとして株式の本質価値を計算します。
さらに理解しやすいように、配当は成長せず定額で配当されるケースを考えてみましょう。
先ほど同様のキャッシュフローを図示するといかのようになります。


配当をD、割引率をrとして数式化すると、
\(株価=\frac{D}{(1+r)}+\frac{D}{(1+r)^2}+\frac{D}{(1+r)^3}+…+\frac{D}{(1+r)^n}\)
となり、nを極限まで大きくしていくと株価は \(\frac{D}{r}\)に収束していきます。
計算については、高校数学の等比数列の和というところなので興味があれば自分で計算してみてください。
高校のときは数学とか何に役立つんだろって思ってましたが、こういうときに使うんですね!
このモデルは定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)と言います。
定率成長配当の株式の本質価値を数式化してみる



企業は成長するし、配当も徐々に増えていくから、定額配当なんてあり得ない!!
そう言いたい気持ちはよく分かます。
しかし、ちゃんと配当が増加していく場合も数式化できます!
定額配当割引モデルに若干の修正を加えます。
初年度の配当をD、割引率をr、 これに成長率gで一定の比率で配当が増加するという項目を付け加えると、
\(株価=\frac{D}{(1+r)}+\frac{D \times (1+g)}{(1+r)^2}+\frac{D \times (1+g)^2 }{(1+r)^3}+…+\frac{D \times (1+g)^{n-1} }{(1+r)^n}\)
\(株価=\frac{D}{(1+r)}+\frac{D \times (1+g)}{(1+r)^2}+\frac{D \times (1+g)^2 }{(1+r)^3}\\\\+…+\frac{D \times (1+g)^{n-1} }{(1+r)^n}\)
となります。
これも等比数列の和になってるので、nを極点まで大きくしていくと、
\(株価=\frac{D}{r-g} \)
という答えが導かれます。
このモデルは定率成長配当割引モデルと言います。
所詮はモデル、だが多くのことを示唆する



現実の配当は定率成長じゃないし、企業は無限に存続するわけじゃない!
こういう声に対しては、「その通りです。」としか言いようはありません。
モデル化、体系化するためにはどこかで近似的な手段を取らざるを得ないし、それが現実と乖離していることがあるのは事実です。
そして、「モデルではこの価格が適正と出てるから現実の価格が間違えてる!」というような独りよがりな結論を導き出すと大けがをしてしまうこともあります。
しかし、単純化したモデルであっても概要を掴むことは可能ですし、それが直感とは異なる正しい理解につながることもあります。
次回はこのモデルによる結論を使って、理論が示唆することについて説明していきます!
割引率とは期待リターンそのものである


この割引率rの説明をあまり詳しくしてなかったのですが、実はこの割引率rは期待リターンそのものです。
だって割引率10%のときに、今の100円と1年後の110円が同じ価値ということは、100円をそこに1年間預けてたら110円になって戻ってくるということでしょ?
株式の割引率は7%少しじゃないかなと言いましたが、それは株式の期待リターンが7%少しかなと推測してるってことです。
話を数式に戻します。
割引率が8%の場合、毎年配当が10円出ている株式の理論株価は125円になります。また、同じく割引率が8%の場合、初年度の配当が10円出て、毎年4%で成長していく場合の株価は250円になります。



ただ数式に数字を入れただけじゃないの?
そうです。
しかし、今まで成長しない株は価値がないと思っていませんでしたか?
配当が成長しなくても適性な価格で買っていればリターンはあります。
この場合は8%ですね。
逆にいかに成長する株だからといって割高な価格で買ってしまうとリターンは落ちてしまいます。
成長性のみに目を奪われて、260円で買ってしまうと配当が成長しない株を125円で買うよりリターンは小さいということです。
期待リターンは無リスク金利+リスクプレミアムに分けられる
期待リターンは7%ちょいと言いましたが、どの市場にも適応されるわけではありません。
期待リターンは無リスク金利+リスクプレミアムに分けて考えてみるとすんなりと納得できる話だと思います。
無リスク金利とはリスクを取らないでも確実に増えるという金利ですね。銀行預金とか国債の利回りだと思って大丈夫です。
そして、リスクプレミアムはリスクに対する上乗せ報酬みたいなものですね
金利が0%のときに株式の期待リターンが7%というと魅力的に感じますが、金利が7%になっても株式のリターンが7%のままだとわりに合わないですよね?
金利が7%になっても株式のリスクは変わらないのであれば、同じ7%のリスクプレミアムで期待リターン14%というのが正当な評価ということです。
私が期待リターンは7%ちょいと言っていたのは、日本の話です。無リスク金利がほぼゼロでリスクプレミアムは7%くらいかなという推測です。



じゃあ、金利が高い国の期待リターンは高くなるの?
その通りです。
なので金利が先進国のなかで相対的に高い米国が、他の先進国よりリターンが高いのは当たり前の話だともいえます。
しかし、
期待リターンが高いのは現地通貨建ての話です!
金利が高いということはインフレ率も高いということです。
そういう国の通貨はいずれ減価することになります!
詳しくはこちらの記事をご参照ください。


結局、高金利、高インフレで高リターンの国に投資しても、円でみると日本株式並みのリターンになるということです。
配当か、成長か?
これまで“配当”を中心に理論価格を考えてきましたが、“純利益”を中心に分析している人のほうが多いと思いますので配当と純利益の関係についても説明していきます。
そもそも株式は営利目的の組織なので利益を出すことが仕事です。そして、その利益を次の成長のための設備投資や人材確保に使ったり、配当として株主の還元したりしています。
ここで株主にとっての価値の最大化を意識して欲しいのですが、割引率とは事業拡大のための最低要求ラインということもできます。
だって割引率が8%であれば、新規事業を拡大したら5%の成長が見込めても再投資することで事業価値は低下しちゃいますからね。
なので、将来の事業投資に割引率以上の高い収益が見込まれる場合は内部留保し、割引率まで達してなければ分配に回すということです。


この将来の事業投資に高いリターンが見込まれる企業をグロース企業、配当を優先している企業を高配当企業ということもできます。
ここまでの話だと、割引率以上の成長が見込めるグロース株のほうが有利に思えますが、グロース企業は割引率を超えてる限りは事業拡大を続け、成長率=割引率の状態で均衡します。
そうなってしまうと、ゼロ成長で利益をすべて配当に回している企業と理論株価は同じになります。
利益をすべて配当に回してゼロ成長の場合、利益=配当なので、\(株価=\frac{配当}{割引率}= \frac{利益}{割引率} \)となります。
みなさんが良く目にするPERは \(\frac{株価}{純利益}\)なので、割引率はPERの逆数ということもできます。
実際はその他の要素も複雑に絡んでくるし、経営も理論的な株主価値の最大化のみを意識しているわけではないとは思いますが、理論的にはこういう考え方もできるということで参考になれば幸いです。
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